ミオシン分子の頭部(S-1)は、ATPを加水分解して得た化学エネルギーを力学エネルギーに変換してアクチンフィラメント上を滑り運動するので「モータータンパク質」と言われている。現在では、S-1重鎖のC端側の軽鎖結合領域がレバーのアームのように働き、ATP加水分解に伴ってS-1は尻尾を振るような動きをしてアクチン上を滑ると考えられている。このようなS-1のモーター駆動には、レバーアーム部分やATPおよびアクチン結合部位以外の部位で起きる構造変化も重要な役割を担うことが示唆されている。 ホウ酸誘導体の疎水性蛍光プローブである3-[4-(3-phenyl-2-pyrazolin-1-yl)benzene-1-sulfonylamido]phenylboronic acid(PPBA)のS-1上の結合部位は、ATPやアクチン結合部位とは異なる疎水性ポケットであることはわかっていたが、これがS-1上のどの部位であるのかは不明であった。これを明らかにするためにホウ酸化合物を特異的に結合することが知られているキモトリプシンの立体構造とS-1の立体構造を詳細に比較した。その結果S-1には一次構造だけではなく立体構造上もキモトリプシンの活性部位と高い相同性をもつ領域のあることがわかり、PPBAのホウ酸部分はSer181と反応することが明らかになった。さらに、結合したPPBAの蛍光団はp-ループ、スイッチ1、50kDa-リンカーと呼ばれる疎水性アミノ酸で成る3本のポリペプチド鎖に囲まれることから、この領域が問題とする疎水性ポケットであると同定した。
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