車軸藻ミオシンの滑り速度は最大60μm/sと骨格筋ミオシンの10倍である。いかにしてこのように速い滑り運動を生ずるのか、そのメカニズムを探るため、車軸藻ミオシンの機能と構造を詳細に検討した。滑り速度が骨格筋ミオシンの10倍速い為には、アクチン活性化ATP分解活性が10倍であればよい。測定結果は、車軸藻ミオシン25s^<-1>、骨格筋ミオシン20s^<-1>と同程度であった。では、アクチン・ミオシン結合時間が1/10と短いのであろうか。とすれば滑り運動を起こすに要する最少ミオシン分子の数が10倍必要である。しかし、in vitro運動アッセイにおいて、車軸藻ミオシンの方が骨格筋ミオシンより少ない分子数で滑り運動を起こした。残る最後の鍵として、レバーアームに当たる首、即ちステップサイズが車軸藻ミオシンでは10倍長いだろうか。光ピンセット法による力測定から、ステップサイズ35nmであった。。骨格筋ミオシンの2倍強の長さである。我々の車軸藻ミオシン重鎖クローニングの結果から首部に6回IQモチーフの繰り返し構造が判明しており、ミオシンVと同じ首部の長さ同じステップサイズである。然し10倍はない。驚いたことに車軸藻ミオシンは100nMという低いATP濃度の下、車軸藻ミオシン1分子がプロセッシブ運動をする事がエバネッセント照明の下顕微観察された。しかも、0.4μm/sという驚くべき速さである。 以上の知見を総括すると車軸藻ミオシンの運動メカニズムは、化学過程と力学過程がタイトにカップルすると考えるレバーアームモデルでは説明できそうもない。ATP1分子分解のエネルギーで複数回サブステップを踏んで進むルースなカップリングであると考えるのが妥当ではないだろうか。 以上の成果は生物物理学会、第11回武田科学財団シンポジウムCOE国際会議で報告した。
|