アクトミオシンモーターの滑り運動は1方向に起こる。どうして1方向性を示すのか?これを説明する次のような仮説がある。それは『滑り力を発生している間、つまり力発生のためアクトミオシン内で弾性歪みが生じている間(弾性歪みが正)はアクチンとミオシンは解離しにくい。しかし、その弾性歪みが減少あるいは滑り方向と逆方向に力発生をしようとする歪みが生じた際(弾性歪みが負)には解離しやすい。』という考えである。ところで、このアクトミオシンの解離はATPによって起こるが、それまで保持していたADPの遊離が先に起こらなければならない。したがって、この説はアクトミオシンからのADPの遊離が弾性歪みが正の時は小さく、負の時は大きくなるということに言い替えられる。この説を検証する目的で、1997年にウサギ骨格筋速筋の筋原線維のADPの遊離速度を弾性歪みを変化させて測定した。その結果、ADPの遊離速度は弾性歪みが正、あるいは負の値に対して非対称性を示し上記の説を支持した。現在はアクトミオシンモーター分子のレベルで結合蛍光ADPの寿命が弾性ひずみに依存するかどうかの実験を行っている。その結合蛍光ADPの寿命はPrismless TIRFMで観察するが、その寿命測定はアクトミオシンATPの反応が速いため通常のビデオイメージングでは時間分解能が1/30秒の限界がある。この時間分解能をあげる目的でTIRFMからの蛍光ADPのスポット像をミラーを振動させ、ビデオ画像上にそのスポットの軌跡として記録する装置を製作し、時間分解能を上げるビデオイメージングに成功した。現在、アクトミオシンにいろいろな弾性歪みを与えた状態で、結合ヌクレオチドの寿命の測定をおこなうため光トラップ装置をあらたに組み入れた。現在、ようやく稼働しはじめた段階で目的の測定実験を進めている。
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