筋収縮は、ミオシンとアクチンとの相互作用によって起こる。通常のモデルからは、力発生はミオシンがすべて行なっている可能性が推測される。しかし、ミオシンとアクチンとの界面で発生している可能性もあり、いまだにこの問いに対する答えはない。そこで、ミオシンのみで力発生をしているという仮定の下に、ミオシンの力発生を表面力測定装置で直接測定するために、我々はミオシンの2点を捕捉できるように遺伝子組換え技術を用い融合蛋白質を作製した。これは、東京大学の須藤和夫教授のご協力により可能となった。また、このような蛋白を捕捉する為に、石英薄膜をECRスパッターでマイカ基板上に蒸着してそれぞれの面を化学修飾して機能化させた。スパッター装置は、本学の後藤顕也教授のご好意により使用することが可能となった。すべての過程は別の実験を行なって完成度が高いことを確認した。例えば、石英薄膜上への化学修飾の定量化は、水晶振動子マイクロバランスにより吸着過程、吸着密度を詳細に測定した。遺伝子組換えしたミオシンのATPase活性やアクチンフィラメントの運動活性能のチェックを行い、抽出したミオシンの活性があることを確認した。実験では、ミオシンを2点捕捉後、直ちにUV照射によりATP加水分解反応を開始できるように、caged-ATP試薬を使用した。UVによるアーティファクトを排除するために、ウサギ骨格筋から調整した筋原線維を用いてUV照射量による収縮速度減少を定量化した。実際に実験で使用するUV照射量ではほとんど活性を低下させないことがわかった。また別に、UVによるダメージによる効果ではないことをcaged-ATP試薬のない場合の実験で確認した。 遺伝子組換えミオシンは、構造変化を伴って平均0.7pN以上の力発生を行なうことが結論された。筋収縮の力発生は、ミオシンがすべてを請け負っていることが明らかになった。
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