神経細胞はその発生過程において様々な様式の細胞極性(神経上皮、非対称分裂、遊走、突起の極性化)を顕わすので、極性形成を研究する上で特に興味深い材料である。本研究では培養条件下において神経細胞の極性が逆転する現象を解析した。 複数生じた神経突起のうち1本が軸索となり他が樹状突起となる現象は神経細胞の最終的な極性形成である。Bankerらは胎児期の海馬細胞を培養し、再生してきた軸索を切断すると他の樹状突起になるはずの突起のうちの1本が軸索に変換することを観察し、神経細胞の極性が突起再生の初期には逆転可能であると報告している。しかし、彼らの研究はあくまでin vitroで再生してきた未熟な突起に関するものであり、生体内で確立された極性が逆転しうるかどうかを見たものではない。 出生直後の大脳皮質ではほとんどの細胞がすでに樹状突起と軸索を分化させ、明らかな極性を持っている。これを十分な酵素処理によって単離すると、太くて長い樹状突起を有する神経細胞を得ることができる。この細胞を低密度で培養すると、約8割の細胞で樹状突起が活発に伸長して軸索に変換した。もともと樹状突起であった部分も、tau1抗体(軸索マーカー)陽性となり、MAP2(樹状突起マーカー)陰性となった。また、このように樹状突起から軸索が生じる場合には、樹状突起以外から軸索が生じる場合に比べてより長い時間がかかっていた。 この結果は、発生中の神経細胞の細胞極性は体外に単離されることによって失われ、培養中に再形成されることを示している。
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