好中球は急性炎症の際に中心的な役割を果たす細胞であり、好中球由来の様々な宿主因子が炎症反応をもたらしたりマクロファージなどのその他の炎症細胞もしくは免疫担当細胞を引き寄せたり活性化させたりする。HIV感染は性行為感染症のように性器粘膜に炎症をきたした場合に感染しやすいことが知られており、またHIV感染者がさらにその他の微生物感染(とそれに伴う炎症)を契機に病気のステージが進行してしまう事が観察されている。本研究では、好中球由来の宿主因子がHIV感染に及ぼす影響を調べた。 1.カテプシンG セリンプロテアーゼの一種であるカテプシンGはマクロファージのchemotaxisと活性化をもたらす。マクロファージをあらかじめカテプシンGで刺激しておくとマクロファージへのHIV感染が亢進する。一方感染が成立した後に長期にわたってカテプシンGによる刺激を受けると、マクロファージにおけるHIVの発現は抑制される。HIVに対するこれらの効果は、血清中に含まれるセリンプロテアーゼ阻害物質であるアンチキモトリプシンやG蛋白を介するシグナルを阻害する百日咳毒素によって失われる。 2.ラクトフェリン 好中球はラクトフェリンを産生する細胞としても重要である。この蛋白は母乳をはじめ多くの体液中に含まれており、抗菌活性を有する。ラクトフェリンは用量依存性にHIV感染を抑制する。この効果は主にウイルスが細胞に侵入する最初のステップでもたらされているが、ウイルスがどの共受容体を利用して細胞に侵入するかには依らない。ウイルスの転写(発現)には影響を及ぼさない。
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