移民コミュニティにおける固有言語消滅のプロセスの解明を通じて、言語がいかにして消滅の危機に瀕するかを動態的に理解するため、日本の韓国・朝鮮語コミュニティとドイツのトルコ語コミュニティを対象に、インタビューやアンケートによるデータ収集を行った。 生越と研究協力者の金美善(大阪大学大学院)は大阪市生野区在住の在日コリアン一世の自然談話を採集した。金はまた、二世以降の世代を対象に、韓国・朝鮮語と日本語に対する態度、使用域に関するアンケートを行った。さらに、生野周辺の一世と比較するため、対馬や東京の一世、韓国・済州島の帰国一世からもデータを収集した。海外共同研究者の任榮哲(韓国・中央大学校)は、日本での調査と比較するためニューヨークの在米韓国人にアンケートを行った。林はベルリン市内でトルコ系移民が集中するクロイツベルク地区にある中学校でトルコ系の生徒116名にアンケート調査を行った。調査データの分析中は継続中であるが、現在までに明らかになった点は以下のとおりである。 1.韓国・朝鮮語話者の集まる生野区周辺の一世の日本語には韓国への帰国者同様のピジン化が見られる。 2.一世の韓国・朝鮮語と日本語の使用比率は、母方言を同じくする一世同士の会話、異なる方言話者同士の会話、子や孫との会話の順に日本語の比率が高くなる。 3.日本語に対応する表現がない場合に韓国・朝鮮語と日本語の混用形式が二世以降にも継承される可能性が高い。 4.在日コリアンに較べ、在独トルコ系移民は本国と密な交流・関係を維持している。 5.アンケートに回答した中学生ではトルコ語よりドイツ語が優勢であり、将来もドイツ語が重要だと見なされている。 6.学校以外の場面(両親や隣人との会話、音楽などの娯楽、買い物など)ではトルコ語も依然として重要性を失っていない。 なお、金の研究は、朝日新聞(2001年1月9日朝刊)掲載の「ニッポンのことば」のなかで紹介された。
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