言語の存在が危機的状況に陥る場合、そこでは必ず他の優勢な言語との二(あるいは多)言語併用状態を経ているとの認識から、アジア・アフリカ地域において、記述言語学的研究と社会言語学的研究の両面から現地調査を続け、危機言語問題について考察を行った。 具体的には、アフリカのタンザニアと南アフリカのカメルーン、そして東南アジアのインドネシアにおいて、それぞれの国における共通語と部族・地方語との係わりの比較・対照研究を行った。 タンザニアではスワヒリ語が国語として全国的に用いられているが、マリラ語、ルオ語、ベンデ語などの、まったくか、あるいはほとんどデータのない言語を記述しつつ、それらの言語の語彙、文法のいかなる面がスワヒリ語に犯されやすいかを、またカメルーンでは、西部のバムン語と地域共通語のピジン・イングリッシュとの関係、さらにはインドネシアではバリ語、スンバワ語などの記述をベースに、語彙、文法のいかなる面が国語であるインドネシア語に犯されているかを考察した。そこではたんに、優勢語から地方語へという方向性のみならず、逆に、地方語から優勢語へという影響も見られた。ただし、優勢語が地方語から影響を受けることによって、逆に優勢語に親しみやすいという状況が生まれることも起こりうることが確認された。
|