本研究では、シベリアの北東端に分布するチュクチ語を緊急調査し、そこで得られた民話、神話のほか、民俗語彙などを収集・記録し、また文法の記述を行なうことを目標としてきたが、その主な研究成果は以下の通りである。 1)今年度は現地調査を通じて、チュクチの民話、神話などフォークロアを大量に収集することができた。今はそれらをジャンルに分け、出版する準備を進めている。 2)また、現地調査での聞き取りを通じて、トナカイ遊牧文化を反映する民俗語彙を多く集めることができた。今後なるべく早く整理し、出版する予定である。 3)チュクチ語の文法の中で、主に語形成について記述研究を行なった。とりわけ、語彙的接辞について網羅的に調べ、それらの付加によって派生される出名動詞と名詞抱合との類似点、相違点を明らかにした。また、語彙的接辞に関する先行研究の問題点を指摘し、チュクチ語の動詞形態論の研究を一歩進めることができた。 4)チュクチ語の使役表現を詳しく調べ、その実態を明らかにした。チュクチ語には、「形態的使役」、「分析的使役」、「語彙的使役」の3種類があり、このうち、「形態的使役」と「分析的使役」を最も生産的であり、動詞語幹に一つの接辞がつく「単純使役」、二つの接辞がつく「二重使役」のほか、「逆使役」も存在することが明らかになった。
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