・「ツングース諸語における譲渡可能を示す接辞について」 ツングース諸語の所有構造は、一部の例外(ソロン語、満州語、シベ語)を除き、一般に頭部表示型(Head marking)で、所有者を示す名詞には何もつかず、被所有物(もしくは被所有者)を示す名詞に所有者を示す所有人称接辞がつく。N__- N__--所有人称接辞 しかしここでその所有関係が譲渡可能とみなされる場合には、譲渡可能を示す接辞が現れ、次のような構造をとる。N__- N__--譲渡可能-所有人称接辞 本稿では、まず譲渡可能の接辞に関する詳しい先行研究であるBoldyrev(1976)の記述を紹介し、次に筆者が現在若干のテキストコーパスを使用できるウデヘ語(II)、ナーナイ語(III)、ウイルタ語(III)について譲渡可能の接辞が現れている例を調べた。しかるのちその結果とBoldyrev(1976)の記述を比べてその異同を検討しつつ考察を加えた。 ・ツングース言語文化論集15『ナーナイの民話と伝説6』 本書はロシアの少数民族であるナーナイの民話と伝説などの口承文芸を、録音から書き起こして文法的分析及び翻訳を加えたものである。ソ連の1989年度の統計によればナーナイ族の人口は約1万2千人、そのうち母語話者は44.1%の5292人とされているが、その大部分を占めているのは60代以上の(つまり現在は70代以上の)老人であると考えられる。近年相次いで語り手が亡くなり、前著と本著採録のテキストは全て村にただ一人残る「語りべ」であるN.P.Gejker氏によるものだけとなってしまっている。氏も80を越す高齢となっている。したがって本書の記録はきわめて貴重なものということができる。本書に収録したテキストは全部で12で、テキスト3と5を除く10編のテキストは、ジャンルとしてはningmaanで、3と5はsioxorである。
|