この調査・研究は、フィリピンと台湾の原住民諸言語のなかで、特に消滅の危機に瀕している少数民族に注目して、それらの言語の過去何世紀も踏襲しているオーラル・トラディシヨンを映像とともに録音し、音声記号による記述保存を目的としている。森口は、フィリピンのイヴァタン語、カラオ語、台湾のプヌン語、ヤミ語を、山田は、イトバヤット語を、海外研究協力者のE. Constantinoは、ルソン島の北部のネグリート語と中部のカリンガ語を調査し、それぞれテキストの記録を行った。 今年度は、10月にConstantinoによるNanang : I Taguwasi anna I Innawagann.(フィリピン、ラビン・アグタ・ネグリート叙事詩「タグワシとイナワガン」)を出版し、3月末には、山田による「イトバヤット語辞書」、Constantinoによる「カリンガ・ウラリム」を出版の予定であり、特に、後者は脱稿して、目下、印刷中である。 現在、森口は、イヴァタン語、ヤミ語、ブヌン語の調査を、山田は、イトバヤット語の追加調査を継続中である。しかし、学校教育の普及と国語の教育、マス・メディアなどにより少数民族の言語の統一化が進んでいて、その調査は、緊急度が高い。また、Constantinoが行っているネグリート調査は、この叙事詩を所有する民族の居住地が、災害や都市化のために離散していて、さらなる調査研究が必要になる。今後は、森口の台湾のヤミ語、ブヌン語、フィリピンのイヴァタン語、及び、その周辺地域の言語の記述テキストを発表する予定である。
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