この調査・研究は、フィリピンと台湾の原住民のうち、特に、消滅の危機に瀕している少数民族に注目して、それらの言語が代々踏襲しているオーラル・トラディションを映像と共に、録音し、音声記号による記述、保存を目的としている。森口は、フィリピンのカラオ語、イヴァタン語、バブヤン語を、山田は、イトバヤット語を、海外研究協力者のE. Constantinoは、ルソン島のカリンガ語、ネグリート語の一言語であるアグタ語を調査し、テキストの作成を行った。 本年度は、この調査研究の最終年度であり、山田が昨年度発表したYamada Y.(2002) : Itbayat-English Dictionary.の欠けている部分を補充し、また、E. Constantinoは、現在では歌う人すべてが死に絶えてしまい、彼が独自に録音したテープでしか聞くことの出来ない大部なネグリート語の叙事詩の記述とそれらに分析・解説を加えたConstantino E.(2003) : The Abduction and Wedding of two Negrito Maidens.を公にした。その叙事詩を所有する民族の居住地への低地の人々の進入による都市化に伴いもともと狩猟・採集民で定住していない情報提供者を探し出すのにも非常に困難を伴うものであるために、このテキストの重要性は、より増して来るのである。 現在、森口、山田は、それぞれの調査を継続していて、今後とも続ける予定であるが、学校教育の普及と国語の教育により少数民族の言語の消滅が目に見えている。そのために、これらの言語の調査、記録、資料の保存、出版の緊急性が、実感される。
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