稗田(研究代表者)は、ウガンダでクマム語(ナイル諸語)とサミア語(バントゥ諸語)を調査した。その成果は、「サミア語の時制とアスペクトについて」(近刊)や、また、近く出版予定のサミア語の語彙集と文法記述で公表する予定である。クマム語は、話し手の数が約2万人であり、すぐにではないが、死語になる恐れがある。サミア語は、ウガンダとケニアに居住する話し手を合わせると、話者の数がクマム語などよりは多い。しかし、社会的、政治的要因を考えれば、けっして安心できない。安部(研究協力者)は、タンザニアでマア語を調査した。マア語は、死語になりかけている。安部は、社会言語学的方法をもちいてその実態を明らかにした。小森(研究協力者)は、タンザニアでケレウェ語を調査した。ケレウェ語は、死語になる脅威にさらされてはいないが、近隣の言語から多くの要素を、とくに、語彙を借用している。しかも、ケレウェ語の話者は、借用した要素を本来あった要素と混同している。この状況が進むと、ケレウェ語は、本来の姿からかけ離れたものになる可能性がある。もし、これを死語の過程のひとつと考えるなら、ケレウェ語も死語になる可能性があると考えられる。このような言語干渉による急激な変化は、サミア語では文法面でも生じているように見える。言語干渉による急激な変化によってまったく姿をかえることは、とくに、系統的に、構造的に似ている言語同士の接触で生じる可能性があることを、稗田と小森の研究は示唆している。この指摘は、新しいものであり、まだ、十分論証されたわけではないが、さらなる調査によってより多くの資料を集めることで、この分野の研究が推進されるであろう。
|