研究概要 |
本研究では今年度,予定通り渡辺がコモックス語,そして弓谷がトワ語の現地調査をおこなった. 渡辺はコモックス語のボイスを中心に調査研究を進めた.形態法にかんしては,渡辺のこれまでの調査研究ですでに基礎的な記述はある程度形をなしている.しかし,それぞれのボイスとアスペクトの関係が,未だ明確に解明されていない.本年度は中動態と他動詞のそれぞれについて,時間的な意味を担う副詞的要素との共起性を調査した.その結果,従来記述されてきたよりも,特に中動態についてはアスペクトとの関係が複雑であること,そして他動詞については他動詞化接尾辞のうちのひとつが,行為がおこなわれた結果を含意することから,アスペクトとの関係が密接であることが分かった.この他,その存在がこれまで必ずしも明らかではなかった,受動態語幹を(再)他動詞化する形態法にかんして,新たな資料をえることができ,その文法性が確認できた. 弓谷はトワ語調査の中でも,主に以下のふたつの事柄に焦点を置いた.ひとつはスペイン語からの借用語で,もうひとつは動詞の活用である.前者については,プエブロインディアン諸語の中では,これまでニューメキシコ州で話されているテワ語が最もスペイン語からの借用語が多いと考えられてきたが,今回の現地調査の結果,トワ語の方が借用語がはるかに多いことがわかった.えられたデータから,借用語の伝播の道筋,つまり,スペイン語から直接入ったか,それとも別のインディアン語を経由して入ったかについて研究を進めている.動詞の活用については,不規則動詞のタイプが依然多すぎると思われる.少数のタイプにまとめるためには,さらに新しいデータが必要である.
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