研究概要 |
今年度渡辺は夏期に2ヶ月弱,弓谷は約1ヶ月,それぞれスライアモン・セイリッシュ語とトワ語の現地調査をおこなった. 渡辺の調査では,ここまでスライアモン語にかんする先行研究のいずれもが見落としていたアスペクトを示す接尾辞について重点的に資料を集めた.この接尾辞は完了の一種を表わすと考えられるが,形式的にも意味機能的にも非常に似通った他の接尾辞,倚辞が複数個ある.問題の接尾辞を形式には同定できたと考えるが,その意味機能の解明には未だ資料が足りない状態である.来年度も引き続きこの接尾辞の調査を続ける.その結果を踏まえた,スライアモン語のアスペクトにかんする体系的な記述を準備しつつある.その他,原語テキストの収集,書き起こしに努めた. 弓谷のトワ語の現地調査では、主に二つの事柄に焦点を置いた.一つは存在・位置に関する表現の研究で,もう一つは民話の収録である.トワ語では「〜に〜がある」と言いたい場合,存在するものは,生物,非生物とも,大きく3つのタイプに分類される.すなわち,「立っているもの」「座っているもの」「横になっているもの」である.この分類方法にはヘメス族の人たちの世界観が現れているようで,興味深い.それから,民話にかんしては,今回は長めのものと短めのものを一つずつ収録し,音声記号で書き表した.ヘメス族では,民話を語れる人が年々減っており,現在80歳代以上の年長者しか語れなくなっている. 両名とも調査対象の言語を流暢に話せる話者がますます減ってきていることを痛感し,細かい文法事項の調査や民話等の原語テキストの収録の緊急性がさらに高まっていることを感じている.
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