本年度は、シベ語の音韻論的、形態論的研究を行なった。具体的な研究発表及び海外調査としては、8月にまず、中国黒龍江省ハルビンの黒龍江省社会科学院において開催された「21世紀満通古斯語言文化与人類学学術研討会(21世紀満洲・トウングース言語文化と人類学学術シンポジウム)」に出席し、「錫伯語的清音化和濁音化(シベ語の無声化と有声化)」というタイトルで、シベ語における子音の無声化と有声化について、研究発表を行なった。音韻論的には、摩擦音に有声と無声の区別を認めず、ある環境で現われる音声[v]を、音韻論的な/w/が実現したものとする解釈を提示した。 9月には、中国新彊ウイグル自治区イーニン市において、満洲語口語(シベ語)の調査を進め、主として音韻論、形態論に関わる研究を行なった。口語テキストを収集し、音韻表記を施す作業を行なった。また、語彙集の作成準備を進めた。これらは、本研究の最終年度となる来年度に公刊の予定である。 9月末には、同自治区ウルムチ市において、ウイグル語の音節構造について、初歩的な研究を行なった。 また、8月に、九州大学大学院生の西岡いずみを、研究協力者として中国新彊ウイグル自治区に派遣した。西岡は、同自治区のウルムチにおいて、ウイグル語の指示詞の用法について研究を行なった。特に日本語の「そ」系列に概略相当する指示詞について、文脈照応用法においては、変項解釈をもつ文脈にしか現われないことを明らかにし、11月に九州大学で行なわれた日本言語学会第123回大会において、「現代ウイグル語指示詞体系の再考」と題して研究発表を行なった。
|