研究概要 |
ニューカレドニア及びヴァヌアツ地域には特異な言語特徴を持つ少数言語が密集しているが、いまだにその多くは十分な調査がなされていない。これらの言語の解明は言語研究の上で大きな意義を持つだけでなく、オセアニアの比較言語学的研究、更には言語の系統関係からの民族移動の解明などの視点からも重要である。 大角翠(研究代表者)は2000年8月及び9月にオーストラリアとニューカレドニアで資料収集、現地調査研究を行い、ニューカレドニアの原地語の社会言語学的状況.少数言語の実態を調べた。その結果、28の原地語のほとんどが、フランス語ないし、近隣の主要言語の為に近年、話者を激減させており、危機的情況にあることが分かった。サラメアとプティクリの二つの原住民居留地域では、大角が1,983年以来研究しているティンリン語の語彙調査を行い、更に、過去の習慣、儀礼についての話を記録に留めた。ティンリン語は話者が260人程度しか残っておらず、若年層でほとんど話せるものがいないことに加え、話者のほとんどがフランス語と、ハランチュー語ないしアンジュー語との3言語併用者なので、言語の変容が著しい。ティンリン語の隣接地域に全く未調査の、危機的状況にある言語が存在することも分かり、今後の課題となった。ニューカレドニアでは近年デフ語、ネンゴネ語、イアアイ語、パイチン語、アンジュー語、ハランチュー語の6言語が幾つかの中、高等学校の教科となった。原地語の研究者、出版物の数も増え、母語話者で研究者となる人々もあらわれた。これらの言語意識の高まりがニューカレドニア言語の保存と活性化に、また言語研究の上で、大きな影響を与えることが期待される。 ヴァヌアツの社会言語事情についての調査は、D.トライオン教授と内藤真帆氏の研究協力を得て行った。100以上の原地語については5〜6の言語を除くとまだほとんど解明されていない状態である。国語であるビシュラマ語は、他の公用語の英語、フランス語より、また原地語と比べても地位が低く、英語の普及のかげで脱クレオール化していると思われる。
|