学習者の英語理解度を向上させる手段として有望視されている字幕の利用について、その効果的活用条件を特定する試みを行った。DVDで英語の映画を英語字幕付で視聴する状況を、リスニングスキルとリーディングスキルの双方が稼動された情報処理過程であると捉え、この状況下で各学習者がどのような言語挙動をとるのかを、リーディングスキル関与の側面から分析した。実験に先立って、英語の映画の字幕状況を分析し、実験で用いた場面については、1字幕の平均提示時間は1.93秒、平均音節数は7.2であり、「字幕を読む」作業は、細区分された文単位を2秒前後という極めて短い時限付きで音声と照合しながら情報処理をしていく環境にあることを明確にした。 日本人大学生を被験者として行った実験の結果、(1)字幕の提示が内容理解度を高めることを確認し、(2)内容理解の向上率に被験者の単語力とリーディング挙動が大きくかかわっていることが分かった。このリーディング挙動については、2つの特徴的パターンを抽出することができた。字幕をほぼ一定のペースで読み進めていると考えられる被験者については、字幕読み所要時問が短く、不規則なペースで読み進めていると考えられる被験者については所要時間が長かったが、字幕利用によって内容理解度を向上させているのは後者であることが分かった。このことは、複数の言語技能が同時に稼動される状況下では、単一の技能への偏った依存は阻害要因になることを示唆している。 本研究では、従来個別に取り扱われてきた「読む」、「書く」、「聞く]、「話す」といういわゆる4技能について、「聞きながら読む」といったマルチチャネルの情報処理環境の出現を背景に、研究の枠組みを柔軟に再構成すると共に、メディア利用が可能にした個別学習によって多元化のしつつある個々の学習者の認知パターンに注目する視点の意義を明らかにした。
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