多くの分子にはイオン対的な励起状態(A^+B^-)^*があり、その励起状態に希ガス原子Rを衝突させて、希ガスの分極による反応、R+(A^+B^-)^*→RA^++B^-、を起こさせて多原子の負イオンB^-を生成することが期待される。本研究では第一段階として低い励起状態にある、2原子分子HCl分子と分極率が高いArとの相互作用を経て、イオン対的な励起状態へ導き、Cl^-が生成される可能性をab initioの高精度計算によって、励起状態の断熱ポテンシャル面を求め、追求した。 トリプルζ+拡がった関数+分極関数を基底関数として用い、CASSCF計算によって第2励起状態の断熱ポテンシャル面の全体像を求めた。ArとHClが接近すると、Arの分極を通して、イオン対的な励起状態Ar(H^+Cl^-)^*のエネルギーが低下し、H^+がArに引き寄せられて、ArH^++Cl^-の解離状態へ導かれる。CI計算によって、ポテンシャル面上の重要な点(障壁、解離極限など)のエネルギーを求めて、この過程はエネルギー的に可能であることを確かめた。多くの多原子分子においてもイオン対的励起状態があることはよく知られており、分子負イオンもこのような過程で作れることが可能と考えられる。 以上のほかに、金属界面、或いは金属表面と分子の相互作用を金属のバンド構造を適切に取りこむように対応軌道変換を利用する工夫によって、量子化学的手法による適切な記述法を開発した。
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