B-H化合物によるヒドロホウ素化は有機ホウ素化合物の優れた合成法としてこれまで数多く利用されてきたが、無触媒で進行するため触媒存在下での挙動はほとんど調査されていない。最近になりロジウム、パラジウム、ニッケル等でのカテコールボランのアルケン、アルキンへの触媒的付加反応の報告がされている。無触媒反応と触媒的ヒドロメタル化反応における選択性の相違は炭素-炭素不飽和結合への相互作用が典型金属と遷移金属で異なるため付加の位置・立体選択性が逆転することや、付加速度が促進されることによる官能基選択性が発現することにある。 本研究は、遷移金属錯体(M)へのm-Hの酸化的付加によるm-M-H錯体の形成、炭素-炭素不飽和結合へ挿入、還元的脱離による付加体の生成を経て進行すると考えられる、通常の触媒的ヒドロメタル化反応に対し、塩基を共存させることでM-m活性種の生成を経て、これまでの反応機構とは異なるビニリデン錯体を鍵段階として進行する、形式上m-Hがトランス付加したシス-アルケニル金属化合物を与える反応の開発を目的としている。今年度は用いる金属錯体、配位子による位置、立体選択性の調査、アルキンの一般性の確認を行い反応機構の詳しい調査も行った。 イリジウム触媒によるアルキンの二量化反応 イリジウム-トリアルキルホスフィン錯体が二重結合の異性化に高活性かつ高選択的な触媒となることを報告している。イリジウム錯体[Ir(cod)Cl]_2を用いて末端アルキンの二量化が効率よく進行し用いるホスフィン配位子によりトランス-直鎖状エンイン、シス-直鎖状エンイン、ブタトリエンが選択的に生成することがわかった。アリールホスフィンではトランス直鎖状エンインを、アルキルホスフィンでは末端アルキンの置換基の大きさによってシス直鎖状エンイン、ブタトリエンを選択的に与えることが明らかとなった。 ビニリデン錯体を経由する触媒的トランス-ヒドロメタル化反応 アルキンの二量化反応の知見をもとに同様の条件下、ボラン(B-H)による末端アルキンのヒドロホウ素化を検討した。予想通りanti-付加が進行し、シス-アルケニルホウ素化合物が高選択的に得られることが明らかとなった。反応は中心金属(ロジウム、イリジウム等)、配位子(トリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン)、塩基により制御可能と考えられるので、それら反応条件、アルキンの一般性について精査した。ロジウム-トリイソプロピルホスフィン錯体で高いシス選択性が発現し、アルキンに種々官能基があっても選択性が低下することなく高収率で対応するシスアルケニルホウ素化合物がえられた。また、重水素ラベル実験によりアルキンの末端水素の内部炭素への移動が確認され中間体としてロジウムビニリデン錯体の存在が示唆された。
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