酵素蛋白質は、化学反応を効率よく起こすための「化学反応場を」活性部位に作っている。この化学反応場の役割は、まず、基質を特異的に認識することである。次に、化学反応のエネルギー障壁を下げることである。本研究の目的は、このような化学反応場がどのような仕組みで酵素蛋白質内に構築されているのかを明らかにすることである。得られた知見は、化学反応場を持たない蛋白質に人工的に化学反応場を作る基盤技術となりうる。基質の認識と反応障壁は、いずれも自由エネルギーを計算することによって理論的に解析できる。申請者は、蛋白質の自由エネルギーを定量的に計算するために、独自のプログラム群を開発した。まず、研究の第1段階として、実験データが多い蛋白質の熱安定性自由エネルギーを計算することによって、計算方法の信頼性を実証した。第2段階として、この計算方法を蛋白質の基質認識に適用した。すなわち、DNA結合蛋白質であるλ-repressorとDNAとの結合自由エネルギーが、DNAの塩基対の違いによって変化することを、定量的に求めることに成功した。今年度は、その計算結果の信頼性や再現性を、計算条件や計算規模を変えて行って実証した。更に、第3段階として、同様の計算方法を触媒抗体(6D9)と基質アナログ及び真の基質とに適用している。基質アナログの原子電荷を非経験的分子軌道計算によって決定して、自由エネルギー計算の準備が整ったところである。
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