全電子混合基底第一原理分子動力学法による分子設計・物質設計

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12042209
• 研究機関: 横浜国立大学
• 研究代表者: 大野 かおる 横浜国立大学, 工学部, 教授 (40185343)
• 研究分担者: 川添 良幸 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30091672)
• キーワード: 全電子混合基底法 / 第一原理分子動力学法 / フラーレン / 内包フラーレン / GW近似 / 電子励起状態 / 時間依存シュレディンガー方程式 / 分子設計支援システム

研究概要

局所密度近似(LDA)の一電子波動関数を原子軌道関数と平面波の重ね合わせとして表わす効率的な第一原理計算手法として全電子混合基底法を開発し、まず第一原理分子動力学シミュレーションを行った。C_<60>に異種原子を高速に入射することにより、これを内包或いは置換させる可能性を調べた。Se,Te,Sbなどは40eV程度の比較的小さな入射エネルギーでフラーレンの六員環中央を通り抜け内包することが分かった。また、Asは内包ではなくC_<60>の骨格に置換される可能性が高いことを示した。このプログラムをベースに分子設計支援システムを構築すべく、本年度は可視化ソフトウェアAVS Express/Visを購入し、昨年購入のワークステーションに導入した。
本研究では、基底状態のみならず電子励起状態を扱うため、全電子混合基底法に従来のLDAを超えて多体問題の自己エネルギーを扱うGW近似を取り入れ、ナトリウムおよびリチウム・クラスターの準粒子エネルギー(イオン化ポテンシャルと電子親和力)を計算した。
また、電子励起状態において原子ダイナミックスを追跡する方法の開発も行い、全電子混合基底法に、時間に依存するKohn-Sham方程式を積分しながら分子動力学シミュレーションを行うルーチンを組み入れ、H_2+Li_2の反応を追跡した。基底状態から出発した場合には、二つの分子は分子内振動を繰り返しながら反発し合うが、一方、HOMOレベルにいる二つの電子をLUMOレベルに励起させた状態から出発すると2LiHへの組み替え反応が起こることを明らかにした。反応の電子論的ピクチャーについて説明するとともに、この種の化学反応における、自発的原子移動による電子励起状態からの自然緩和機構およびその逆過程として、原子衝突による電子の自然励起機構を提案した。励起状態を経由した原子ダイナミックスの制御の問題への具体的な方法論が完成したといえる。

研究成果

• [文献書誌] K.Ohno and Y.Kawazoe: "Chapter 5 : Theoretical Insights of Fullerenes Absorbed on Surfaces : Comparison with STM Studies"Advances in Scanning Probe Microscopy : Springer Series on Advances in Materials Research, edited by T.Sakurai & Y.Watanabe (Springer-Verlag, Berlin). Vol.2. 113-142 (2000)
• [文献書誌] T.Ohtsuki and K.Ohno: "Chapter 7 : The Study of Endohedral Fullerenes and Heterofullerenes by Nuclear Recoil and MD Simulation"Nuclear and Radiochemical Approaches to Fullerene Sciences, edited by T.Braun (Kluwer Academic, Amsterdam). 137-156 (2000)
• [文献書誌] T.Ohtsuki,K.Ohno,K.Shiga,Y.Kawazoe,Y.Maruyama and K.Masumoto: "Systematic study of foreign-atom-doped fullerenes using a nuclear recoil method and their MD simulation"Journal of Chemical Physics. 112. 2834-2842 (2000)
• [文献書誌] S.Ishii,K.Ohno,Y.Kawazoe and S.G.Louie: "Ab initio GW quasiparticle energies of small sodium clusters by an all-electron mixed-basis approach"Physical Review B. 63(March 15 issue, in print). (2000)
• [文献書誌] T.Morisato,K.Ohno,Y.Kawazoe and I.Kusunoki: "Study on Local Structures of C_xN_<1-x> Films by First-Principles Is Orbital Energy Calculation"Materials Transactions, JIM. 41. 628-630 (2000)
• [文献書誌] J.Onoe,K.Ohno,Y.Kawazoe and K.Takeuchi: "X-ray Photoelectron Spectroscopy and Ab Initio Molecular-Dynamics Studies of an Air-Exposed C_<60> Film"Transactions of the Materials Research Society of Japan. 25. 1011-1014 (2000)