研究概要 |
S-ニトロソチオール(R-SNO)は、生体内での一酸化窒素(NO)ドナーとして近年大きな関心を集めている化学種であるが、容易に分解するために、反応性などについては未解明の部分が多い。本研究では、このような化学種の性質を明らかにするために理論的解析を行うとともに、そこで得られた予測を、高反応性化学種の安定化のために独自に開発したbowl型分子を活用して実験的に検証することを目的として検討を行った。Ph_3CSNO(1)およびPhSNO(2)をモデル化合物としてB3LYP/6-31G^*レベルでの計算を行ったところ、C-S-N-Oの配座について1ではsyn,antiの両異性体のエネルギー差が小さかった(syn体の方が0.15kcal/mol安定)のに対し、2ではsyn体がanti体より0.66kcal/mol安定という結果が得られた。次に、新規なbowl型置換基として、Ph_3C基を放射状に伸長させた脂肪族立体保護基(Trm基)を開発した。TrmSHを亜硝酸t-ブチルで酸化することによりTrmSNO(3)を合成し、緑色の安定な結晶として単離した。また、m-テルフェニル基を放射状に伸長させた新規な芳香族立体保護基(Bpq基)の開発も行い、BpqSHの亜硝酸エチルによる酸化によりBpqSNO(4)を合成し、暗緑色の結晶として単離することに成功した。芳香族S-ニトロソチオールは特に反応性が高いためにこれまで安定な化合物が知られておらず、4が初めての単離例である。X線結晶構造解析により3,4の構造を決定したところ、3がC-S-N-Oの配座についてsyn,antiの異性体混合物(syn:anti=0.33:0.67)であるのに対し、4はsyn体のみから成ることが明らかとなった。これらの結果は、理論計算による予測と一致している。
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