金属クラスター錯体の化学合成が進歩し、さまざまな系が得られている。その中で磁気的な性質において最も関心を集めているのがMn12核クラスター(以下Mn12と略記)である。このクラスター中には、8個のMn^<3+>(S=2)と4個のMn^<4+>(S=3/2)があり、その間の反強磁性的な相互作用によりS=10の巨大な磁気モーメントが分子上に出現する。ブロッキング温度と呼ばれる温度以下では磁化曲線にあたかも強磁性体のようなヒステリシスループが現れる。 本研究では、Mn12の超分子化合物を合成し、そのなかでMn12が受ける影響を通じてMn12の特性の解明を進めるとともに、超分子化によってMn12の新しい側面を引き出す努力をした。有機ラジカルとの塩の作成や、結晶溶媒を取り込んで結晶化する系の合成に成功し、磁気測定を進めていく過程で、結晶溶媒を含む[Mn_<12>O_<12>(C_6H_5CO_2)_<16>(H_2O)_4]・2C_6H_5CO_2Hが、交流磁化率の虚部χ″の温度依存性に二つの極大をもつことを見出した。ふたつの極大の大きさは同程度であり、低温側のもの単純に不純物のものとするこれまでの解釈を否定するものであった。χ″から求めたブロッキング温度はそれぞれ2.7Kと1.3Kであったが、結晶中にブロッキング温度の違う二種類のクラスター分子が存在する、つまり磁気的なモザイク結晶であるという解釈に到達した。 さらにこの系について検討したところ、この交流磁化率のふたつの極大の強度比、つまり2成分の存在比には試料依存性があり、作り方を変えることによってある程度その比をコントロールできることが分った。最終的には、低温側の成分つまりブロッキング温度1.3Kの成分しか含まない結晶もつくることができたので、この結晶を取り出して結晶構造解析を行った。ブロッキング温度が低い分子中では、Mn3価のサイトのうちの一つが、分子軸方向に縮んだ異常なヤーン・テラー変形をしていることを見出した。この構造変化によりブロッキング温度の低下を半定量的に説明することができた。
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