研究概要 |
金属カチオンとカルバニオンからなる求核的有機金属化合物は,有機溶媒中で複数の会合種の平衡状態にあり,このようなクラスター性有機金属化合物の反応機構は複雑を極めている.このような有機金属化合物を活用する精密合成反応の開発には,その反応機構の解明と理解が必須であるが,実験的な手法のみでは解決しえない問題点も多い.この為,大規模量子化学計算と合成反応研究を組み合わせた研究開発がその威力を発揮することが期待される研究分野である.本研究では計算機化学的手法を用いた有機金属クラスターの反応機構の解明と,理論研究に基づく反応設計を基盤とした新しい炭素-炭素結合生成反応の開発を目指した.アリル亜鉛試薬のビニルマグネシウムへの付加反応は,1970年代にGaudemarらに見い出され,その後Normantらによる精力的な研究により,合成化学的に興味深い反応として認識されるようになった.その一方で,なぜこのような求核試薬(カルバニオン)の求核試薬(カルバニオン)への付加が効率的に起こるのかという,反応機構的な疑問はこの30年来解かれることがなかった.我々は大規模分子軌道計算を用いた反応経路の検討により,この一見奇妙な反応が,有機亜鉛・マグネシウム会合体の形成を鍵として進行することを明らかにした.さらにここで得られた知見を基に,新たなカルボメタル化反応系の開発に臨み,ビニルホウ素化合物を始め,種々のビニル金属化合物に対する有機亜鉛試薬の新たな付加反応を見い出すことに成功した.また,有機亜鉛試薬としてはアリル亜鉛に加えて,亜鉛化ヒドラゾン,亜鉛化エナミンなど,潜在的な合成的汎用性の高い試薬を見い出すに至った.次年度は反応機構の理論的な解析に加えて,本反応の立体選択的反応への展開を検討する予定である.
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