本申請課題では、内挿法によるab initioポテンシャル曲面(PES)生成法の一般化を行い、動力学の諸問題に応用することを目的とした研究を行った。まず、1994年にCollinsらによって提案された修正Shepard内挿法に基づくPESの生成法を、デカルト座標に基づいて定式化することにより一般の多原子分子系に適用できる形に拡張し、(1)マロンアルデヒドの分子内水素移動反応における多次元トンネル動力学、(2)水、ホルムアルデヒド分子の振動-回転エネルギー準位の予測、(3)分岐反応経路動力学、の3つの動力学の問題に応用した。以下順次成果を述べる:(1)反応経路が大きく曲がるためにトンネル効果を定量的に見積もることが困難な系として知られているマロンアルデヒドの分子内水素移動反応に対して全21自由度を含んだab initioポテンシャル曲面を作成し、Millerのモデルを適用してトンネル効果によるエネルギー分裂を評価したところ、実験値を非常に精度よく再現することができた。(2)振動-回転エネルギー準位を理論予測する振動SCF(self-consistent field)法にdirectに電子状態計算を組み合わせたdirect VSCF法を定式化し、水、ホルムアルデヒド分子の基本振動数、倍音・結合音のエネルギー準位の計算を行った。内挿法によるPESの精度を吟味するため、両分子に対してPESを作成し、その有効性を示した。(3)反応経路が途中で分岐して2つの生成物に到る場合(H_3CO→H_2COH)の同位体効果を調べたところ、反応経路は一方の生成物にのみ到るが反応経路近傍から走らせた最急降下経路は他方の生成物へと到ること、谷-尾根遷移が全対称座標の方向に起こることを初めて見出した。同反応系に対してdirect trajectory法によるsimulationを行い、分岐反応に対する動的同位体効果も調べた。
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