1、電子間距離を露に含む分子軌道法の開発 クーロン相互作用の特異性のために、一電子基底関数に対する電子の動的相関は極めて収束が遅い事が知られている。この事実は、実験と比較出来る程度に正確な波動関数を計算するには、膨大な一電子基底を投入しなければならない事を意味している。この問題に対し我々は、電子の動的相関を予め含んだ有効ハミルトニアンに基づく分子軌道理論を開発した。電子間距離が小さい領域でクーロン相互作用を相殺する電子相関因子を求め、これに相似変換される有効ハミルトニアンを決定した。修正されたMoeller-Plesset摂動論と、直交化双対基底に基づく軌道理論および多体摂動論のプログラムを開発し、幾つかの原子分子を計算した。通常の分子軌道理論に比べ、著しく高い精度の計算が可能である事を示した。 2、RISM理論における新しい溶媒和自由エネルギー標識の検討 私たちが最近開発した部分波展開に基づく積分方程式理論を溶媒-溶質相関関数の計算に拡張し、溶媒和に対する過剰化学ポテンシャルの標識を導出した。部分波の角度展開を最低次である球対称関数で打ち切った場合、RISM理論で現れるChandler-Andersen方程式を得る事が出来る。即ち、RISM理論は部分波理論の最低次近似と見なす事が出来る。新しく得られた溶媒和自由エネルギー標識を従来からの標識と、Embedded Siteモデルおよび数種類のアルコールを使って比較した所、本研究で開発された標識が前者モデルに存在する厳密解と唯一整合する事が分かった。又、従来から用いられている拡張RISM理論を仮定した標識には、相互作用点の数に応じて増加する物理的でない寄与が存在し、実際の応用には適切でないという事が、理論的および数値的に示された。
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