分子や固体の構造や反応性の第一原理からの解明や予想に広く使われている、密度汎関数法には、系統的な改良法が不明で、相関エネルギー以外に、運動、交換エネルギーも近似が必要であるという欠点が指摘されている。申請者は、上記の欠点を持たない、密度行列を基本変数とする密度行列汎関数法を研究した。この理論での中心課題は相関エネルギー汎関数の表式を発見する事である。 まず相関エネルギー汎関数の持つ対称性を考察した。シュレーディンガー方程式の縮約密度行列表現を解く事により、1次縮約密度行列の汎関数としての相関エネルギーは、粒子正孔対称性を持つ事が分かった。これは波動関数の反対称性が課す、フェルミ粒子特有の性質である。次にシュレーディンガー方程式の縮約密度行列表現から、相関エネルギー汎関数を決定できる、閉じた方程式を導いた。方程式に含まれる高次縮約密度行列は、多体摂動論を使い、系統的に近似した。この方程式の解として与えられる相関エネルギー汎関数は、粒子正孔対称性に加えて、既知の座標スケール関係式、極限値を正しく与える事を示した。また方程式の主要項のみを残した、最小近似を提案した。この方程式の精度を調べるため、幾つかの原子分子で、正確な1次縮約密度行列を計算し、提案した方程式を数値的に解くと、厳密な相関エネルギーの95%という、正確な値を与えた。幾つかの原子分子、及び化学反応を例にとり、変分計算を行うと、他の第一原理法と同程度の正確なエネルギー値を得た。
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