蛋白質中電子移動経路を決める新しい方法

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12042235
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 垣谷 俊昭 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (90027350)
• 研究分担者: 倭 剛久 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (90251587)
• キーワード: 電子トンネル移動経路 / 蛋白質中電子移動 / worm model / ドナー / アクセプター / 電子移動速度制御 / トンネル電子流密度 / 光合成

研究概要

光合成やミトコンドリアでのエネルギー変換ではタンパク質中電子移動が極めて重要な役割を果たす。この電子移動はトンネル効果によって起こる。電子はタンパク質中のどのような経路を辿ってドナーからアクセプターにトンネル移動するのか,電子移動経路の制御はどのようにして行われるのか,また、その電子移動速度制御はどのようにして成されるのか等が現在重要な課題になっている。
私達はタンパク質中の任意の原子対間を流れるトンネル電子流密度を求め、その中で大きなトンネル電子流密度に沿って電子移動経路が形成されていると言うアイデアをもった。トンネル電子流密度の大きさをextended Huckel法で計算する手法を開発した。モデルのタンパク質としてHarry Grayらが実験で用いたと同じく、ヒスティジンにルテニウム錯体を配位した6種類の修飾アズリンを用いた。それぞれのタンパク質で、規格化したトンネル電子流密度(0.1以上)の大きさに比例した太さと方向性を示す矢印で表現した。その結果、電子移動経路は直接の化学結合部分を通るのみならず、化学結合の無い原子間をジャンプする経路も多数見られた。これを次のような手順で疎視化した。ドナーとアクセプターを結ぶ直線に垂直に数多くの平面でカットし、その平面を横切るトンネル電子流の位置を記し、各平面毎に重心と分散を計算した。それらの重心を結びそれに分散の幅をつけた筒状の物(wormと名づける)が疎視化した電子トンネル経路である。wormの重心線の長さは直線の長さにくらべて1.2から1.3倍程度であり、湾曲度は小さい。すなわちボンドの無いところもトンネル電流が流れ、電子移動経路が余り長くならないように最適化されている。wormの形と電子移動速度との関係を調べるのは今後の課題である。

研究成果

• [文献書誌] T.Kawatsu,T.Kakitani and T.Yamato,: "A novel method for determining electron tunneling pathway in proteins"Inorg.Chim.Acta. 300-302. 862-868 (2000)
• [文献書誌] A.Kimura,T.Kakitani and T.Yamato: "Theory of excitation energy transfer in the intermediate coupling case. II. Criterion for intermediate coupling exciation energy transfer mechanism and application to the photosynthetic antenna system"J.Phys.Chem.B. 104,. 9276-9287 (2000)
• [文献書誌] A.Yamada,S.Yamamoto,T.Yamato and T.Kakitani.: "Ab initio MO study on potential energy surfaces for twisting around C7=C8 and C4-C7 bonds of coumaric acid"J.Mol.Struct.(THEOCHEM). 536. 195-201 (2001)
• [文献書誌] T.Kawatsu,T.Kakitani and T.Yamato: "Worm model for the electron tunneling in protein : Consolidation of the pathway model and the Dutton plot"J.Phys.Chem.. (in press).
• [文献書誌] 垣谷俊昭: "電子と生命-新しいバイオエナジェティックスの展開「電子と生命」シリーズ・ニューバイオフィジクッスI"共立出版. 16 (2000)
• [文献書誌] 垣谷俊昭: "生体エネルギー変換の戦略生体とエネルギー物理-生命力のみなもと"裳華房. 24 (2000)