本研究では、触媒反応や酵素反応に関して密度汎関数法を用いて化学動力学的研究を行った。具体的には以下の研究を行った。 メタンを常温常圧でメタノールに変換するメタンモノオキシゲナーゼは、非ヘム鉄2核活性サイトを持つことが明らかにされている。この酵素機能を解明するために、密度汎関数法を用いた理論的解析を行った。その結果メタンからメタノールへ至る反応は2段階の協奏的な水素引き抜きおよびメチル基の転移によって起こることを明らかにした。この反応機構は気相中で起こる裸の鉄オキソ種とメタンとの反応機構と一致する。さらにシトクロームP450の反応について密度汎関数法を用いた理論的解析を行った。とくに反応の律速段階であるC-H結合引き抜きに関して速度論的同位体効果の理論的考察を世界に先駆けて行った。 理論化学の立場から酵素機能の解明を行う研究はこれまでにあまりなされていなかったが、本研究で理論化学的手法がこの種の反応機構研究の主力となりうることを示したことは意義深いと思われる。
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