本研究は、炭素ラジカルの反応制御と合成化学的利用を行う上での重要な知見を得ることを目的として、分子の中心に第14属〜17属元素を有するハイパーバレントラジカル化合物の構造とエネルギーを理論計算により求め、元素による差異と一般性を明らかにする事を目的として行った。その結果、下記の成果が得られた。1.ハイパーバレントラジカル化合物の構造は、第14族元素の場合には三角両錐構造であり、窒素以外の第15〜17族元素の場合にはローンペアがエカトリアル位を占めるゆがんだ三角両錐構造である。2.ハイパーバレント化合物の生成過程で、エカトリアルの結合距離は殆ど変化が無く、ハイパーバレント結合が3中心-3電子結合により形成されている事と矛盾しない。3.電子相関を取り入れないと、ハイパーバレント化合物の安定性が過小評価される。ただし、ハイパーバレント化合物を生成する反応のエネルギー変化の傾向は、計算方法によらず同じである。4.ハイパーバレント化合物の生成反応のエネルギー変化は、第2周期元素では第3周期以降の元素の場合と比べて非常に大きい。また、第3周期以降の元素では、第14族と第15族では周期による差はほとんど見られず、第16族と第17族では後周期元素ほどエネルギー変化量は減少し、より安定なハイパーバレント化合物を生成する。また、いずれの周期の元素においても、エネルギー変化は、group14>>group17>group16>group15の順に減少した。5.ハイパーバレント化合物生成反応において、エカトリアル結合およびエカトリアル置換基の電荷の変化が大きい元素ほど、ハイパーバレント化合物は不安定となる。6.電気陰性度が小さい元素ほど、安定なハイパーバレント化合物を生成する。
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