遷移金属錯体は、有機合成反応や重合反応の均一系触媒として重要である。これまで、われわれは、有機金属錯体触媒を目的とする反応に合わせて分子設計し、合成する研究を行ってきた。本研究では、より優れた触媒活性を示す有機金属錯体の開発を目的として、以下の重合触媒を研究した。 タンタル錯体触媒による開環メタセシス重合 タンタルのベンジリデン錯体がノルボルネンの開環メタセシス重合の触媒となることを見いだした^2。ブタジエンが配位したタンタル-ジベンジル錯体Cp^*Ta(butadiene)(CH_2Ph)_2(1)をノルボルネン存在下に加熱することによって開環メタセシス重合(ROMP)が進行し、cis-poly(norbomene)が得られた。一方、o-キシリデン配位子を持つタンタルのジベンジル錯体Cp^*Ta(o-(CH_2)_2C_6H_4)(CH_2Ph)_2(2)を触媒として用いることによりpoly(norbomene)のC=C2重結合をトランスに制御できることを見いだした。ブタジエンを補助配位子とした場合にホスフィン化合物としてベンジリデン錯体3が単離でき、o-キシリデンを補助配位子とした場合、ベンジリデン錯体4が単離できた。従って、ポリマーのC=C2重結合の立体化学は、重合反応の中間体であるタンタル-アルキリデン錯体のTa=Cの立体化学により制御されていることが明らかになった。 タンタル錯体触媒による極性モノマーのリビング重合 3族や4族のメタロセン触媒は、α-オレフィン類の重合ばかりでなく、極性モノマーの重合触媒となることが見いだされ注目されている^3。われわれは、メタクリル酸メチル(MMA)の重合触媒として、モノマーであるMMAを配位子とするタンタル錯体を開発し、リビング重合が進行することを見いだした。[Cp^*TaCl_2]_2と1当量のMMAを反応させることにより、タンタル-MMA錯体Cp^*Ta(MMA)Cl_2(5)を合成した。次に、錯体5と1当量のマグネシウム-ブタジエン化合物を反応させることにより、ブタジエン-MMA錯体Cp^*Ta(diene)(MMA)(6)を得た。錯体5と1当量のLi_2(R_2-dad)(thf)_4を反応させ、ジアザジエン-MMA錯体Cp^*Ta(Cy_2-dad)(MMA)(7)を得た。錯体5と7の分子構造は、X線構造解析を行うことにより確認した。いずれの錯体でも、MMA配位子はη^4-配位様式でタンタルに配位している。タンタル-MMA錯体6および7に1当量のアルキルアルミニウムを添加した系はMMAの重合触媒となり、シンジオリッチなポリマー(rr=70〜%)が生成した。AlEt_2Clを加えたときは重合は進行せず、AlMe_3を加えたときに最も分子量のそろったポリマーが得られた。
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