鞍部領域の相空間のトポロジーを考慮に入れた反応遷移における新しい動的選択規則を新規に開発した。この選択則は殆んどすべての自由度がカオス的であっても反応の「終状態」(もしくは「始状態」)はアプリオリに決まっていることを主張するもので、種々のエネルギー領域におけるアルゴンクラスターの異性化反応にその手法を適用し、軌道計算により得られた終状態をはば広いエネルギー領域において非常に高い確率で予測できることを示すことに成功した。現在、その研究成果をJ. Chem. Phys.に投稿予定であり、これまでの研究成果の総説執筆を依頼されており、近くAdv. Chem. Phys.において発表予定である。 高次元カオスと化学反応の動力学の研究は1980年台後半から米国を中心に精力的に行われていたが、3次元系以上への拡張は本質的な困難を伴うため頓挫していた。本研究は鞍部領域の局所から大域へ繋ぐseparatrix理論を多次元に拡張する上で、大きな手掛かりを与えており、現在、我々の研究を契機に、我々のグループ(小松崎、戸田、Rice、Berry)と独立にWiggins、Uzerらが独立に研究に着手し始めた。今回導出した反応遷移の選択規則は、反応を速く進行させるために反応開始時にどのような初期状態を設定すれば良いかを探る絶好の手段であり、アプリオリな局所平衡近似を越えて、溶媒を分子摩擦と捉える描像、更には通常のモード選択性の概念を越えて、新しい反応制御を創出する可能性を国内外の研究者に提言できたといえる。 この他、フォールディングダイナミックスに関しても、ブラウン的な確率過程のなかの規則的遷移を解明するプロジェクトを本研究期間中に開始しており、その結果の一部を近く生物物理、Journal of Physical Chemistry (共にinivited)に投稿予定である。
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