研究概要 |
金属-金属結合を持つ遷移金属クラスター化合物は、新規触媒や固体触媒表面モデルとして、また、電気化学及び光化学材料としてなど、多元的な機能を集約しうる化合物として注目を集めている。特に、直鎖状に構造規制されたこれまでにない構造を持つ新規クラスター化合物の開発とその応用は、21世紀における科学の新分野を開拓する上でも重要な課題の一つであると考える。 当研究室がこれまでに合成した金属-金属結合が直線状に配列した白金三核錯体(1)(linear-[Pt_3(μ-dpmp)_2(XyINC)_2]_<2+>)について種々の小分子及びビスイソニトリルとの反応を試みた。特に、ビスイソニトリル(CNRNC)との反応の場合、Rに立体障害の少ない2,5-dimethyl phenylene及びphenyleneを用いた場合には、集積化はクラスターダイマーで停止し緑色の[(CNRNC)Pt_3(μ-dpmp)_2(CNRNC)Pt_3(μ-dpmp)_2(CNRNC)](PF_6)_4(6,7)が得られた。Rに立体障害の大きい2,3,5,6-tetramethyl phenylene,2,2',6,6'-tetramethyl biphenyleneを用いた場合には{[Pt_3(dpmp)_2(CNRNC)](PF_6)_2}_nの組成を持つクラスターポリマー(8,9)が得られた。化合物(8)はX線結晶構造解析により一次元剛直ポリマー構造を形成していることが明らかとなった。金属結合を持つ小クラスター高分子の構造が明らかにされた例は極めて少なく、また、本手法を用いれば、これまでに合成した種々の三核錯体を直鎖状に集積し広範囲な複合材料に応用することが可能であると考えられる。 また、化合物(1)をNaBH4で還元することによりpt_3ユニットが2分子還元的にカップリングした濃青色の白金六核クラスター(linear-[Pt_6(μ-dpmp)_4(XyINC)_2]^<3+>(10))が得られ、その構造をX線結晶構造解析により明らかにした。クラスター(10)は価電子数が85で、これまでに合成された低原子価(酸化数く2)の直鎖状白金クラスターとしては最も長い金属鎖を有する。白金の平均酸化数0.5であるが、金属-金属間距離はクラスター中心部へいくほど長くなっている。化合物(10)のサイクリックボルタモグラム(CV)では、E_<1/2>=-1.21V(vsAg/Ag^+)に準可逆な還元波が観測されることから、化合物(10)は容易に1電子還元を受け、価電子数86のlinear-[Pt_6(μ-dpmp)_4(XyINC)_2]^<2+>(11)を与えるものと推定される。
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