クラウンエーテル及びその誘導体などの環状ポリエーテルは、アルカリ金属イオンを選択的に捕捉するという、興味深い性質を有している。この選択性については溶媒効果が大きく影響することが既に報告されているが、クラウン環の持つ柔軟性もまたカチオン選択性に大きく影響すると考えられる。本研究ではイオン選択性に及ぼす2つの効果を取り入れた理論計算を行い、機能性分子の溶液中の安定構造を推定する方法を確立すると共に、その方法をクラウンエーテル誘導体及びそのLi^+錯体に適用し、イオン選択性との関連を明らかにすることを目的とした。 本研究では、機能性分子の溶液中の構造の推定に以下の手順を用いた。 1)Conflexプログラムにより配座を発生させ、それらを構造最適化して配座間のエネルギー差を評価する。 2)配座同士を重ね合わせ、原子間距離の標準偏差を算出し、配座間の差違を数値化し、同一配座を削除する。 3)配座間の標準偏差値が小さいものを結び付けることにより、最も幾何構造が類似している配座同士を相関させた相関図を作成する。 4)相関図に沿って自由エネルギー摂動法を用いた差溶媒和自由エネルギー(・・G_s^<A→B>)の算出を行う。 開発した方法を12-crownO_3N及びそのLi^+錯体に適用し、それらの水溶液中での構造の検討を行った。その結果、真空中で評価された安定性の違いは、溶媒効果を入れることにより、そのエネルギー差が縮まる、もしくは逆転する可能性があることが判明した。さらに、極生溶媒中では12-crown-O^3NはLi^+と強く結合しないという実験結果と一致した結果が得られた。以上のことから、本方法が、機能性分子の水溶液中の構造の推定に使用できることが判明した。
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