クラウンエーテル及びその誘導体などの環状ポリエーテルは、アルカリ金属イオンを選択的に捕捉・輸送するという興味深い性質を有している。この選択性については溶媒効果が大きく影響することが既に報告されているが、クラウン環の持つ柔軟性もまたカチオン選択性に大きく影響すると考えられる。そのため、この機能発現機構を解明するためには、溶媒中における分子構造に関する知見がきわめて重要である。我々は、この構造の柔軟性と溶媒効果を同時に評価する理論的な手順(反応に関与すると思われる溶媒分子をMO計算に含めることで直接的な溶媒効果を概算し、バルクとしての溶媒による効果はMCシミュレーションにより評価する)により、(12-crown-O_3N)Li^+錯体の水溶液中での構造に関して良好な結果が得られることを示した。本研究では、アミンアームを持つ12-crown-O_3NのLi^+錯体(1)に対しこの手順を適用し、アセトニトリル及び水中における、イオン選択性発現機構に関する検討を行った結果、以下の結果が得られた。 (1)極性の高い溶媒(水)中ではアームの窒素原子はアザクラウン環の中心で相互作用しているアルカリイオンに配位しないという実験結果と一致する結果がえられた。 (2)水に比べて極性の小さいアセトニトリル中では、アーム窒素原子の脱配位に伴なう不安定化は、バルクとしての溶媒効果により十分に回復できない事を示している。 (3)Li^+錯体は、水溶液中ではr=3Å付近で最安定構造を取ると計算された。この結果は、Li^+錯体が水溶液中では生成しないことを意味する実験結果と対応する。これに対し、Na^+錯体はクラウン環に配位した状態(r=0.3Å付近)が最安定という、[12-Crown-O_3N]Na^+錯体は水中、アセトニトリルにおいて二量体を形成し易いという実験事実と良い対応する結果が得られた。
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