研究概要 |
1.既に合成を完成させている48量体までの一連のオリゴチオフェンの酸化種の性質について,ESRスペクトルと電子吸収スペクトルから検討を行い,長鎖オリゴマーでは,同一鎖内に複数のポーラロンが個別に存在する酸化状態が安定であることが分かった。しかし,温度可変スペクトルから,複数のキャリア種が混在している可能性が示唆され,2個ポーラロンがさらにπダイマーを形成しているのではないかと考えられる。 2.ポリチオフェンの伝導キャリアの有力候補と考えられている,πダイマー種のモデル化合物として,ジチエニルエタンを出発原料として7段階の反応で,オリゴチオフェン5量体をシクロファン型に2量化させた化合物を合成し,酸化種のスペクトル挙動を検討した。各種スペクトルから5量体オリゴチオフェンユニットはスタック構造を有しており,2電子酸化することで室温で定量的にπダイマーを生成することが分かった。これにより,πダイマー種の構造と吸収スペクトルを明らかにすることができた。 3.オリゴチオフェン4量体と8量体のC60連結化合物に金電極との接合のためのジスルフィド基を導入した化合物を合成し,修飾金電極を作製した。4量体化合物は,金電極上に密な膜を形成しなかったが,8量体化合物からは緊密な自己集合単分子膜が得られた。この修飾金電極を用いて光起電力を測定したところ,電子キャリアとしてのメチルビオロゲンの存在下,顕著な光陰極電流が観測され,オリゴチオフェンが単分子光電池系のドナー部位としてだけでなく電荷キャリア移動の分子ワイヤとして高い機能を有していることを明らかにした。 4.ベンゾトリチオフェン誘導体からトリフェニレノトリチオフェンの合成に用いた急速真空熱分解(FVP)法によって,トリフェニレノトリチオフェンのトリベンゾ縮環化合物の合成に成功した。また,ジベンゾチアコラニュレンの合成にも初めて成功した。これらは特異的なボール型の分子構造とconcave-convex積層型の結晶構造を有すると予想され,それらの構造と物性の解明を急いでいる。
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