研究概要 |
本研究者らはヘムタンパク質や光合成反応中心のように金属錯体を活性中心に持ち、さまざまな反応性を示すタンパク質の機能を電子レベルで明らかにすることを目標としている。このような系における定量的な理論計算のためにab initio Hartree-Fock法と同程度の計算量で電子相関を取り込むことができるKohn-Sham-Roothaan方程式に基づく密度汎関数法に着目し、プログラムProteinDFを開発してきた。ProteinDFはオブジェクト指向言語C++でコーディングされている。C++のプログラム単位はデータとその処理関数群を1体とした独立性の高いクラスであり、プログラムの保守性や拡張性が高く、並列処理とも相性がよい。実際にProteinDFのほとんどのルーチンは並列化されており、その効率は分散並列マシンにおいて80%程度である。 今年度、Alphaマシン15台を100BaseTXイーサーネットでつないだ分散ワークステーションクラスタを用いてヘムタンパク質の1つであるシトクロムcの全電子計算を達成した(F.Sato et al.Chem.Phys.Lett.(2001)in press)。原子数、電子数、使用した軌道および補助基底関数の総数はそれぞれ1,738、6,586、9,600および17,578であった。SCF計算1回当たり約20時間を要し、途中本研究で開発した様々な大規模分子計算収束法を使用して、59回の繰り返し計算で収束解を得た。本研究は密度汎関数法による世界初の金属タンパク質全電子計算である。シトクロムcは呼吸鎖中でヘムFeの酸化還元を利用してタンパク質間の電子授受を担っている。電子運搬に深くかかわるHOMOはd_<xy>を主成分とする局在軌道では表わすことができないカノニカル軌道であり、タンパク質分子表面をはみ出したところでもかなりの値を持っていた。この結果は金属錯体が関与するタンパク質電子伝達機構解明に一石を投じるものとなった。
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