熱的に禁制な[2+2]環化付加反応であるにもかかわらず容易に進行するベンザインとオレフィンの反応について、これまで調べてきた反応機構が、途中にスピロ型の中間体を経由する段階的反応であり、ヒドロキシル基を導入することによって位置選択的な環化付加反応が可能であるという計算結果ならびに実験事実を発展させ、オルトベンザインならびにオレフィンにさまざまな置換基を導入することによって、どのような選択的環化反応が可能となるかについて、理論的側面から検討した。 今年度は、置換基としてメトキシ基、シロキシ基をベンザインおよびオレフィンに導入した場合を検討し、電子的効果および立体的因子が反応機構におよぼす影響を、ab initio分子軌道法を用いて理論的に調べた。その結果、ヒドロキシル基よりはメチル基の方が、電荷の偏りを大きくし、より反応性を高めること、シロキシ基の場合は、メトキシ基よりも反応性が落ちること等がわかった。また、強い電子吸引基であるフッ素をベンザインに導入した場合についても検討した結果、これまで2段階反応であった環化付加反応が1段階反応となり、エネルギー障壁が非常に低くなることを見い出した。このことは、量子化学計算によって熱的に禁制な[2+2]反応であっても、ベンザインおよびオレフィンの置換基を制御することによって、反応機構を変化させ、極めて選択的で、しかも高い反応性を持つ場合が、理論的に予測できるということを意味しており、今後の実験的検証が期待できる。
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