研究概要 |
発光ダイオードなどの電子・光デバイスの材料として,共役高分子の分子設計を行う際に基礎となる実験データを構築することを目的として,共役高分子のキャリヤーである正ポーラロン(電荷,+e;スピン,1/2)と正バイポーラロン(電荷,+2e;スピン,0)の安定性について,ポリチオフェンとその誘導体を用いて検討した.ポリチオフェンに,FeCl_3ドーピングを行った場合には,低濃度から高濃度領域までバイポーラロンが安定に存在したが,位置規則性ポリ(3-オクチルチオフェン)では,低濃度ではポーラロンが安定に存在し,高濃度ではバイポーラロンが安定に存在した.同じドーパントを使用しても,ポリチオフェンとポリ(3-オクチルチオフェン)では,ポーラロン/バイポーラロンの安定性が異なることが明らかとなった.これは,ポリマーの分子・固体構造が,ポーラロン/バイポーラロンの安定性に影響を及ぼしていることを示している.また,中間的な濃度では,ポーラロンにもバイポーラロンにも帰属できない構造をラマン分光法で検出した.これは,理論的にポーラロン格子からバイポーラロン格子に転移する際に中間状態として予想されている構造,すなわち,ポーラロンが2量体を作った構造である可能性力高い.また,ポリチオフェンにヨウ素をドーピングした場合には,ポーラロンのみが生成した.このことから,カウンターイオンがポーラロン/バイポーラロンの安定性に影響を及ぼしていることがわかった.また,ポリチオフェンに関して,ポーラロンとバイポーラロンの赤外吸収スペクトルを測定することができ,今後,赤外分光法によってもポーラロンとバイポーラロンを同定することができるようになった.
|