研究概要 |
本研究では、三体結合反応を研究する手段として、逆過程である衝突解離反応について調べている。衝突解離反応だと、反応前において二体衝突なので、理論的にはこの方が扱いやすいからである。詳細釣り合い原理に従えば、順過程・逆過程は区別することなく同等に考えることができる。 まず、一自由度(分子間距離の動経方向)のみを古典的に扱い、それ以外の全ての自由度は量子力学で扱う半古典論を導入し,その中で厳密に解くことを行った。この半古典論をヘリウム原子と水素分子の衝突に適用した。波束の時間発展を見ることにより、ヘリウムの衝突により分子の連続状態-束縛状態間の遷移がどのようにして起こるかを詳しく知ることができた。また、連続-束縛状態間遷移で分子の回転共鳴状態が関係していることを発見した。これは、非直接三体結合に対応するものである。この共鳴状態がどのくらい三体結合に寄与しているかは今後非常に興味ある研究課題になる。 次に、本手法をクーロン力の問題にも適用した。反陽子と水素原子の衝突といったエキゾティック粒子の系での電離過程、反陽子原子生成過程について調べた。普通の原子分子系と違い、負電荷の反陽子がある距離(0.639bohr)以下に近づくと断熱(ボルンオッペンハイマー)的な電子束縛状態は存在しなくなる。このため、電離過程は低エネルギー衝突でも大きな断面積を持つし、イオン化エネルギー以下では反陽子生成が主な過程になる。このような系の衝突過程を記述するのに、分子的描像は役に立たず、常套手段である量子化学的手法が使えなくなる。本手法では、電子の運動を数値的に直接解いているため、このような問題も扱うことが可能である。 反陽子・水素原子衝突でも半古典論を仮定して計算を行った。しかし、低エネルギーでは古典的な仮定を置くことに問題があるし、三体結合反応を正確に記述するためには、完全に量子力学的に扱う必要がある。そこで、本年度の終盤では、完全に量子力学的に扱うことを考えた。反陽子・水素原子衝突では、計算結果が出るところまでこぎ着けた。
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