本研究は、分子衝突による三体結合反応とその逆過程である解離・電離反応を量子力学的に厳密に調べた。この研究では、(1)三つの粒子の(解離あるいは電離の)連続状態を扱わなければいけない、(2)分子(あるいは原子)の高い内部状態を考えなければいけない、といった厄介な問題を解決することが必要である。今年度は、三粒子の連続状態を完全な量子力学で扱うために、波束伝搬法によるプログラムコードを開発することに成功した。さらに、相対運動の動径方向の一自由度のみを古典力学的に、それ以外の自由度を全て量子力学的に扱う半古典論も導入して、量子論との比較を行った。 完全な量子力学計算の例として、クーロン問題を扱ってみた。三体の連続状態に関心があるので、低エネルギー衝突でも電離チャネルが重要となる負イオン衝突を考えた。負イオンとして、エキゾティックな系ではあるが、反陽子やミュオンを選んだ。反陽子衝突は、CERNで進められている反水素生成などの反物質科学にも密接な関係がある。これらの負イオンと水素原子との衝突は三体問題であり、厳密な衝突計算が可能である。核・電子の両方に対して、Discrete variable representation法を用いて、格子点上での波束の時間発展を直接解いた。特に電子の運動に対してLaguerre多項式の分点が有効であることがわかった。これにより、核と電子の運動を同時に量子力学で対等に扱うことに成功した。
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