研究概要 |
超高速レーザー分光を用いて光誘起プロトン移動反応ダイナミクスの研究を行った。主な研究成果を以下に列挙する。 1.DNA塩基対のモデル分子として重要な7-アザインドール二量体の光プロトン移動反応をフェムト秒時間分解蛍光分光を用いて研究した。この反応の機構については、二つのプロトンが協奏的に移動するのか、一つずつ段階的に移動するのかに関して激しい論争がある。これまでに反応前駆体からの蛍光が2成分からなることがわかっており、これと反応機構との関係を明らかにすることが急務であった。蛍光ダイナミクスの励起波長依存性を詳細に調べたところ、長波長励起の場合、反応前駆体からの蛍光減衰が単一指数関数的になることがわかった。これにより、溶液中で反応は協奏的に進むということが明確になった。 2.アントラキノンヒドロキシ誘導体の分子内光プロトン移動をフェムト秒時間分解蛍光分光法で系統的に研究した。1,8-ジヒドロ体、1,5-ジヒドロ体など分子内光プロトン移動を示すとされる分子について、互変異性体型の蛍光が光励起後50fs以内に現れること、すなわち励起状態でのプロトン移動が50fs以内で起こること、を見出した。このことは、これらの光プロトン移動が励起状態波動関数の非局在化を反映して障壁なしで進む構造変化であることを示唆している。また、すべての分子で分子内振動再分配過程を反映すると考えられる蛍光ダイナミクス(〜数ピコ秒)を観測し、分子内プロトン移動を示す分子ではこの分子内振動再分配にともなってプロトン平均位置の変化がおこると結論した。 3.光パラメトリック増幅(OPA)により発生させたサブ10fsの光パルスを用いてポンプープローブ測定を行い、励起状態プロトン移動反応をする分子について光励起直後の電子励起状態分子における核波束運動を観測することに成功した。
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