研究概要 |
我々は,NMRの化学シフト値を用いて,フレキシブルな化合物の溶液中の立体配座を求める手法の開発を行ってきた。この手法では、分子内の各種の官能基が近傍のプロトンに及ぼす誘起化学シフトの値から,問題とするプロトンと官能基の相対的な配置を決めることができることを利用している。すでにエーテル,カルボニル基やベンゼン環の磁気遮蔽効果を見積もるためのパラメータを求めることに成功しているが,本研究では含硫黄官能基について磁気遮蔽効果を見積もった。実際には構造が堅くプロトンの位置の特定が容易な,ステロイド骨格のA環に硫黄原子を含むアンドロスタン誘導体を合成し、スルフィド結合に関する磁気異方性パラメータの決定を行った。さらに化学シフト計算法の有用性を拡張するため,この手法を第2級アルコールの絶対配置決定に適用した。不斉補助試薬としてインデン骨格をもつキラルなカルボン酸を合成し、メントールとエステル化した。得られたエステルについてそのプロトンの化学シフトの帰属を行い,比較対照化合物との化学シフト変化量を求めたところ,イソプロピル基のシグナルにおいて最も大きな差が見られた。また分子動力学計算による計算から得られたそれぞれの計算構造に基づき、化学シフト変化量の計算値を算出した。これらの数値の比較からこの不斉補助試薬の導入による化学シフトの変化量と分子動力学計算を用いて、第2級アルコールの絶対配置を決定することに成功した。
|