研究概要 |
再生は個体の一部分が何らかの理由で失われた際にそれに該当する部分が復元される極めて重要な生物現象である。特に顕著な例はヒトデ類をはじめとする棘皮動物に見られることから、それらには再生現象に関与する何らかの共通する化学物質の存在が示唆される。棘皮動物の特徴的な化学成分としてはスフィンゴ糖脂質に属するガングリオシドの存在が知られており、またそれらには神経細胞に対する分化誘導作用(神経突起伸展作用)が知られていることから、棘皮動物の再生にはガングリオシドが関与している可能性がある。本研究はこのような想定の基に、棘皮動物から神経突起伸展性ガングリオシドを単離・構造決定し、更にそれらの抗体を作成してガングリオシドの生体内分布を調べ、その機能を明らかにするものである。本年度は主に、棘皮動物ガングリオシドの単離・構造決定とそれらの神経突起伸展作用の評価を行った。 材料動物のクロロホルムーメタノール抽出エキスを溶媒処理、各種クロマトグラフィーにより精製し、ガングリオシドを単離した。単離したガングリオシドの化学構造はメチル化分析、部分加水分解等の化学的手法と質量分析(MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等の機器分析的手法を併用してセラミド部の詳細に至まで決定した。その結果、ヤツデスナヒトデ及びオニヒトデからは既知及び新規ガングリオシドLMG-2,AG-1、トラフナマコからは新規ガングリオシドHPG-7、ニセクロナマコからは既知ガングリオシドHLG-1と2種の新規ガングリオシドHLG-2,HLG-3を得た。 次に上記棘皮動物ガングリオシドについて、ラット褐色腫由来細胞PC-12を用いて神経突起伸展作用を評価した。その結果、未検討のAG-1以外はすべてPC-12細胞に対して神経突起伸展活性を示した。
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