研究概要 |
視覚は人間がもっとも頻繁に使用する感覚で、目という小さな器官が、光というごく弱い信号受けて視野領域の膨大な量の情報を正確にかつ極めて短時間に認識を行っている。これらの応答は分子レベルで超高速的に進行しており、各段階の単位時間は極めて短く10^<-3>から10^<-15>秒で完結する。その機構は、視覚細胞中のアポ蛋白であるオプシンと11Z-レチナールが結合し、ロドプシンを形成しこれがE型に光異性化し褪色して行くプロセスである。 申請者の研究は、ロドプシン中の11Z-レチナールとその周辺アミノ酸残基との相互作用を調べる方向で、11Z-レチナールの13位修飾を進めている。本年度は、(1)1,1-ジブロモアルケンを出発原料に選択的にZ,E共役型ジエンの立体化学の制御を達成した。(2)これをもとに11Z-レチナールの11位シス構造の基となるZ,E-ヨードジエンの立体選択的な合成を達成した。この際、13位に相当する炭素には熊田・玉尾反応により各種炭素鎖を導入することが可能となった。特に、後の行程で玉尾酸化によりヒドロキシメチル基に導けるシリルメチル基の導入も実現できた。一方、11Z-レチナール骨格の1位から9位に相当するヨードトリエンを合成し、これをトリエンボロン酸を誘導した。このボロン酸は不安定で単離することは出来なかったが、粗精製のままで上記ヨードジエンと鈴木カップリングを行なって、11Z-レチナール骨格のペンタエンを立体化学を制御して合成することが出来た。そして得られたペンタエンの保護基を除き、酸化して13位エチル置換11Z-レチナールを合成することが出来た。
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