これまで多くのグループが走査トンネル顕微鏡(STM/STS)や角度分解型光電子分光(ARPES)によりBi2212系の超伝導ギャップと擬ギャップの測定を行ってきたが、それらのホール濃度依存性は再現性に難点があった。STM/STSやARPES実験では試料をへき開した後に測定を行うが、Bi2212系のオーバードープ試料は高温(室温)・高真空中でへき開を行うと試料表面の酸素が離脱し、ホール濃度が大きく変化する可能性がある。このため超伝導ギャップや擬ギャップのホール濃度依存性の再現性がよくなかったと思われる。そこで、本年度の研究では新しく購入した極低温で試料へき開が可能なSTM/STS装置(稼動温度範囲:10K〜300K)の立ち上げを行い、試料の一部をSTM/STSの探針としたSISトンネル測定を行った(break-junction法)。その結果、オーバードープ領域でも再現性の良い超伝導ギャップや擬ギャップのホール濃度依存性が得られた。今回得られた超伝導ギャップに関する結果は、たまたま大気中でへき開した試料について測定できた結果と良く合っており、やはり高温(室温)・高真空中でへき開を行うと試料表面のホール濃度が変わることが分かった。また、Bi2212系の擬ギャップの温度依存性を詳細に調べ、これまで我々のグループ等が指摘してきたようにd波超伝導体に対する平均場の特性温度(〜2Δ_o/4.3k_B)付近から擬ギャップがクロスオーバー的に成長し始めることが明らかになった。さらに、本研究では超伝導および擬ギャップに対する不純物効果の研究も行い、擬ギャップが超伝導の前駆的現象であることを指摘した。
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