研究概要 |
パイロクロアLu_2V_2O_7では,バナジウム3d軌道に1個の電子が存在し,強磁性モット絶縁体となっている.強磁性は記憶材料関連に幅広く使われ,さらに今後のスピン注入電子デバイスを考える上で重要にもかかわらず,現在までこの物質での強磁性の起源はわかっていなかった.Lu_2V_2O_7の3d電子は,酸素8面体がつくる配位子場から,3回対称下で,a_<1g>軌道に存在すると思われる.軌道縮退がないことから,今までの考え方ではグッドイナフ・金森則による強磁性体のように思われるが,遷移積分の見積から4次摂動までを考慮した計算では,その効果は小さい.すなわち今までこの種の強磁性には縮退が必要と思われていたが,異なる軌道間すなわちa_<1g>軌道とe_g軌道間の遷移積分が,その2つの軌道間のエネルギー差よりも十分大きければ,軌道がそろったままで強磁性が出現しうることがわかった.そしてそのことがこの系で実際に起こっている可能性が高い.光によりa_<1g>軌道からe_g軌道に励起されたキャリアは,同じe_g軌道間の遷移積分がさらに大きいことから,準安定にa_<1g>軌道の強磁性を背景に金属的に動き回れるものと考えられる.このように考えることで,この系の強磁性の起源と我々が発見したLu_2V_2O_7における光照射による金属化の起源の両方を説明できることがわかった.今年度の科研費により購入したエレクトロメーターにより,高抵抗物質での光照射による抵抗変化を測定できるようになり,またクセノンランプをもちいた波長可変の光源を整備したことから,今後波長依存性を含めた実験を行うこともできるようになった.今後これらの実験を進める予定である.
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