遷移金属酸化物の特異な電子状態、特にバナジウム酸化物の電荷秩序化相転移、および関連する物質の特異な物性の発現機構を、摂動論や平均場近似などの解析的手法、および厳密対角化法、密度行列繰り込み群、量子モンテカルロ法などの計算物理学的手法を用いて研究した。今年度は特に次の3つの研究を進めた。 1.金属絶縁体転移が電荷と軌道の秩序化と同時に起こる新型物質として最近発見されたBi_xV_8O_<16>に関し、1次元強相関電子系という立場から、摂動論と数値的厳密対角化の方法を用いて、基底状態の電荷および軌道の秩序化パターンを提案した。 2.低次元電荷秩序物質の興味深い関連物質である1次元銅酸化物の電荷ゆらぎに関する研究を行った。この系は、銅酸化物非超伝導体PrBa_2Cu_4O_8中の2重鎖構造として実現されている。この系をジグザグ格子上で定義されたクオータフィリングのハバード模型として模型化し、観測されている特異な光学伝導度スペクトルを再現する平均場理論を構築した。これにより、遅い時間スケールでの電荷のゆらぎが、この系の特徴的な物性を支配するカギであることを明らかにした。 3.トレリス格子構造を持っα'-NaV_2O_5の転移温度以上での一様スピン帯磁率やNMR緩和率1/T_1の温度依存性の特異な振る舞いを解明することを目指して、梯子の横木方向の電荷のゆらぎを擬スピン系として取り込んだ有効梯子模型を導入し、これに量子モンテカルロ法を適用することにより、電荷ゆらぎに乗ったスピン系の特異な磁気応答を明らかにした。特に、あるパラメータおよび温度領域で、この模型が1次元ハイゼンベルグ模型のような振る舞いをすることを明らかにした。
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