パイロクロア型モリブデン酸化物における金属絶縁体転移を、一連の溶融試料を作成して明らかにした。スピングラス絶縁体のY_2Mo_2O_7においては、10Kにおいても光学伝導度スペクトルのギャップは50meV程度の非常に小さいものである。また、強磁性金属のSm_2Mo_2O_7やNd_2Mo_2O_7においては、光学伝導度スペクトルが2eVといった高いエネルギー領域まで温度変化し、高温側の極めてインコヒーレントなスペクトルから、低温でのよりコヒーレンスの増したスペクトルの形状へと変わることが明らかになった。また、Sm_2Mo_2O_7における室温より高温側での抵抗率測定では、抵抗率が飽和する振る舞いが見出され、このような振る舞いはモット転移近傍の金属に対して動的平均場理論が予想するものである。これらの結果より、本系における金属相においても電子相関効果が重要であることが明らかになった。 また、強磁性金属相においては大きな異常ホール効果が観測されたが、これはこれまでの理論の予言や、多くの強磁性金属に対する実験結果とは非常に異なった振る舞いを示すものであることが明らかになった。さらにこの異常な振る舞いを示す異常ホール効果の詳細を希土類依存性や異方性まで含めて測定し、モリブデンのスピン構造との相関を明らかにし、近年提唱されているベリー位相を用いた異常ホール効果の理論によって定性的にも定量的にも理解できることを明らかにした。
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